神戸市の東灘区は酒蔵のまちとして古くから有名です。
西郷、御影郷、魚崎郷、西宮郷、今津郷の5つの地域を灘五郷と呼び、日本の「日本酒生産量」が最も多い地域でもあります。
御影郷に位置する神戸酒心館は、江戸中期の宝暦元年(1751年)創業の酒蔵。地元である兵庫県産の米と名水百選の「宮水」を用い、今もなお手造りによる酒造りが行われています。
現在は、お店にたくさんの外国人観光客が訪れ、お土産用やホテルに帰って飲むための日本酒を購入していくのだそう。店内に入ると、英語で外国人観光客にテイスティングの案内をするスタッフの姿が。
今回は、神戸酒心館様に、日本酒をインバウンド客へ販売する際のや取り組みをお伺いしました。
Profile
神戸酒心館店
藤井大樹 様(以下敬称略)
積極的な試飲体験の案内が
商品購入に繋がるきっかけに。
▲神戸酒心館を代表する銘柄「福寿」。数々の賞を受賞し、世界レベルのソムリエからも高い評価を獲得。
――神戸酒心館の「福寿」は、世界的なコンクール「IWC2019」で金賞を受賞されたこともあり、海外の方に特に人気と聞いています。お店に来られる外国人観光客の反応はいかがでしょうか?
藤井2023年現在、団体客ツアーの方と、個人のツアーで来られる方がいます。
印象としては、みなさん事前にGoogleの口コミを見ているのかなと思います。ありがたいことに「英語対応が可能」「多言語ができるスタッフがいる」と書いてもらえているので、そういった口コミを見てこられているのだと思います。
――店頭で英語ができるかできないか」という点が、集客にも影響しているんですね。Googleの口コミを見ているかどうかというのは、どうして分かったのでしょうか。
藤井当店では日本酒のテイスティングができるのですが、そのあとにオンラインでのアンケート回答をお願いしています。どこに宿泊しているか、なぜ神戸酒心館を知ったのかなどを収集しています。
▲アンケートの案内をPOPで案内し、Googleの口コミ獲得につなげている。また、「本日対応可能な言語」「タクシーの案内」なども英語にて表記し、ユーザー体験の評価向上に貢献。
――なるほど、お酒のテイスティングと引き換えにアンケートを取ることで、更なる施策に取り組んでいるんですね。特に外国人観光客に人気のある商品を教えていただけますか?
藤井人気のお酒は、300㎖の「福寿KOBEメモリーズセット」のミニボトルのセット。あとは生酒が人気です。お土産として購入するのは難しくても、その日の内にホテルで飲む人が購入してくれます。あとは、蔵元限定のお酒やノーベル賞で提供するお酒、海外のコンクールでの受賞酒にも興味をいただいております。
▲人気の「福寿KOBEメモリーズセット(300ml×3本/2,980円)」。神戸の名所が描かれたパッケージはお土産に人気。
――意外です!持ち帰ることが難しい生酒もよく売れるんですね。
藤井テイスティングして気に入ってくださった方が購入してくれますね。その場でタンクから瓶に入れるので、「現地でしか飲めない」レア感もあるのだと思います。
▲タンクから注ぐ生酒。その場でテイスティングし、気に入って買う方が多い。「ホテルに帰ってから飲む」という外国人観光客も。
藤井来店される方は富裕層が多いのですが、「お土産を購入したいから来ている」というよりも、試飲して自身が気に入ったお酒を選んで購入されることが多いと感じています。そういった意味では、「必ずこの商品が人気!」という定番モノはないかもしれません。
――お店に入って感じたのですが、積極的にテイスティングの声掛けをされていますね。
藤井そうですね、積極的に声掛けを行うようにしています。国籍によっては機内持ち込みで1本しか日本酒を持ち帰れないため、「気に入ったものを探し当てたい」「おいしかったものを厳選して持ち帰りたい」という想いもあるのかもしれません。気に入ったものを見つけてもらうためにも、積極的にご案内しています。
藤井当店に来られるお客様は「日本酒を飲んだことがない」という方も多いので、基礎知識から丁寧に説明する必要があると感じています。
▲英語の説明シート。日本酒の製造や種類の違いなど、基礎知識から説明。
――スタッフのみなさん、外国語が堪能だなと感じているのですが、何言語くらいできるのでしょうか。
藤井当店には外国人スタッフもいて、中には1人で何言語も対応できるスタッフがいます。例えばスペイン人スタッフであれば、英語と日本語に加えてスペイン語、ドイツ語。イタリア人スタッフは、日本語と英語のほかにイタリア語、フランス語が話せます。
――クワドリンガル!すごいですね。
藤井実は、神戸市の日本語ビジネス学校に通っている方にお声がけして募集しています。多言語対応しているという点は、お店への集客にとても繋がっていると感じていますね。来店される外国人観光客の方からも「色んな言語で対応してくれて嬉しかった」と口コミをいただいています。
▲お店に入ってすぐの場所に撮影ブースを設置。はっぴを着て記念撮影ができ、インスタグラムへのハッシュタグ投稿へ誘導している。
顧客単価UPに繋がる
「店頭配送サービス」の存在
神戸酒心館様では、こだわりタイムズを運営する株式会社高速オフセットのサービス「ハコボウヤ」をご利用いただいています。
※ハコボウヤ…スマホでEMS海外配送伝票が発行できるサービス
海外配送のサービスが店頭にあることでのメリットや、リスク対応についてお伺いしました。
――ハコボウヤのサービスをご利用いただき、ありがとうございます。ハコボウヤを導入する前とした後では、どういった点に変化がありましたか?
藤井海外に送れるサービスが店頭にあると、中にはたくさん買ってくれる旅行客の方もいらっしゃいますので、1人あたりの購入単価UPに繋がっていると感じています。
藤井送料が少し高い国の方の場合、購入するのを断念するか、悩まれることがあります。そのような場合は、「送料がたとえかかっても、自国で買うより日本で購入した方が安く購入できる」と伝えるようにしています。
――店頭でハコボウヤをご案内する際は、お客様から希望があるのでしょうか?それともお店側からご提案するのでしょうか。
藤井基本的には、旅行客から「自分の国に送れますか?」と聞かれて案内することが多いです。日本酒に関しては、EMSで送れる国/送れない国と分かれるため、リストを見ながら確実に送れる国の方から案内するようにしています。
▲国際郵便は配送できるもの・できないものが国によって異なる。特にアルコール類は国によって制限の基準が異なる。国ごとに〇、△、×を示したリストを元に、お客様に配送可能かどうかをご案内する。
――日本酒はアルコールという分類上、海外へ送れる国とそうでない国とでかなり分かれるんですね。
藤井ちょうどこの前、海外の方で12万円のお買い上げをしてもらい、ハコボウヤで配送処理をしました。実は、リストではその国への配送が△になっていたので、送れるか微妙なところでして…。
藤井「ちゃんと届くかわからない」という点を伝え、了承を得てから発送をしました。昨日配送したばかりでまだ届いたかわからないですが、郵便局では受け取ってはくれている状態です。
藤井ほかにも、送れない国の方がいらっしゃったときに、アプリ上で「NG」という表記が出ました。その際は、配送をお断りしました。また、送れる場合でも、リスクを減らすために「翌日に配送しているが、1週間2週間程度の配送時間がかかる」ということは伝えるようにしています。
▲ハコボウヤのアプリ画面。商品のバーコードをスキャンした際に、禁制品に当たる場合はメッセージが出る仕組みとなっている。
――配送前に、海外配送の注意事項をお客様へ伝えているんですね。他に、海外配送の際に気を付けていることはありますか?
藤井日本国内への配送時と比べて特に大きな違いはないですが、瓶が割れないように強度を強くして配送しています。
▲ハコボウヤの案内ポスター。英語・中国語・ハングル語で使い方や注意点を説明している。
――当社のサービスを使っていただき、ありがとうございます!いただいたご意見や店内の導線をもとに、これからも更なるインバウンド事業の需要取り込みに向けて、サービスの向上に取り組んでまいります。
取材を終えて
神戸酒心館では、海外展開以外の取り組みにも非常に力を入れている、その一つがエシカルな取り組みだ。
瓶をリサイクル素材に変えたり、節水・省エネルギー化に取り組むなど環境面へのアプローチや、兵庫のお米農家と協力して農家の後継ぎ問題を解決するための取り組みなどを行っている。
2020年には日本の酒造メーカーとしてはじめて「ウォーター・マネジメント アワード」を受賞し、他の蔵に先駆けて「地球に優しい活動」をされていることが印象的だった。
SDGsは一社だけが取り組むのではなく、国際社会共通の目標であり、企業が一体となって取り組むべき課題。単に日本商品を普及し、広めていくのではなく、環境や伝統問題にもアプローチしていく「輪」を、私たちも広げていきたいと思う。