【越境事業インタビュー】小さな島の日本酒が、世界と繋がる。/小豆島酒造株式会社(香川)

aki

Written by aki

小豆島酒造株式会社インタビュー

観光の島・「小豆島」らしさを大切に。

瀬戸内海に囲まれた小さな島「小豆島」に、唯一の酒蔵があります。

小豆島酒造

小豆島酒造株式会社が手掛ける酒蔵、「MORIKUNI」。

温暖な気候に育まれた島仕込みの日本酒は、1つ1つが手作業で作られています。

小豆島酒造株式会社

「ふわふわ。」「うとうと。」など、島旅を思い起こさせるチャーミングな商品名が特徴的。

実は、MORIKUNIのお酒はフランスやオーストラリア、上海など、海外でも取り扱われています。

小さな蔵のお酒は、いったいどのようにして海外へ渡ったのでしょうか。
小豆島酒造株式会社の池田さん(以下、敬称略)にお話をお伺いしました。

小豆島酒造株式会社池田さん

Profile

責任者 池田亜紀さん

https://www.morikuni.jp/

あえて、伝統に「こだわらない」。
歴史の浅い蔵だからこそ生まれる、
「自由」な日本酒のカタチ。

――MORIKUNIの日本酒は、海外ではどのような国の方が購入しているのでしょうか?また、どのようにして海外に販売しているのでしょうか?

池田現在、ありがたいことに10カ国くらいの方と取引があります。例えば香川県出身でフランスのパリに在住しているアテンドさんがいたり、オーストラリアのメルボルンやカナダにも知り合いがいて、現地のレストランなどに卸す形で取引をしています。

池田約10年前から海外販売を目指して、最初はジェトロが主催する相談会に参加しました。
その時は韓国の方と繋がったのですが、次第に大手の輸出・輸入業者と繋がることができました。

――世界のいろんな方面で小豆島のお酒が飲まれているんですね。海外事業はとてもハードルが高いかと思うのですが、なぜ海外に目を向けられたのでしょうか?

池田MORIKUNIは他の蔵と比べると、歴史が浅いんです。ネームバリューもまだまだありません。小さい酒蔵は、正直、大手と同じことをしても生き残ることはできないんです。だから、どこかで特徴を作らないといけないな、と感じていました。

池田実は、伝統のある蔵では、「日本酒のラベルはこうしないといけない」「瓶はこのサイズにするべき」といったしきたりがあるところもまだ多くて。

――確かに、日本酒のラベルや瓶を見ると、似ているなと思うことがありますね。

池田私たちの蔵は新しいからこそ、「しきたりによってできないこと」をすることができました。

池田例えば、ボトルサイズ。小豆島は観光の島ですし、他にも有名なお土産品としてオリーブオイルやお酢、素麺、醤油などがあります。
お酒を購入するとなると、大きな瓶は重くて買ってもらえないのかな、と。
ですので、できるだけ小さくて軽いものを目指しました。

MORIKUNIの日本酒

100mlサイズの日本酒。おみやげにも可愛いパッケージ。

池田100mlボトルの日本酒や、飲み比べセットなど。
もしかすると、伝統のある蔵からすれば「おかしい」と言われるかもしれません。
でも、観光に来て、買いに来てくれる方の目線に立って、商品の開発に努めました。

池田そうそう、この飲み比べセットはこの前香港に輸送しました。
香港やオーストラリア、今では数十カ国と取引することになりましたが、1つでも何か繋がりを作れば「少しずつ輪が広がっていくんだ」と実感しています。

MORIKUNIの日本酒は、小豆島という「島の味」。
伝統よりも、「島」を感じてもらえる日本酒を。

池田ちなみにこの飲み比べセットの外箱は、島に1件だけ残る木箱職人さんにお願いして作ってもらいました。

MORIKUNIの木箱入り日本酒セット

木箱に入った利き酒セット。100mlが4本入っている。箱自体も職人の手作り。

――WEBサイトで拝見したときにとても可愛いと思っていました。まるで雑貨のようですね。

池田ありがとうございます。
飲み比べセットは、雑貨屋さんが「店に置きたい」と問い合わせしてきたこともありました。

お酒のラベルも1つ1つこだわっているんです。

例えばこの「小豆島の輝」というお酒。瀬戸内海の美しい風景を描いています。
絵に沿って、ラベル自体を切り抜いているんですよ。

小豆島の輝

よく見ると、絵の形に沿ってラベルが切り抜かれている。瀬戸内海の美しい風景は、香川県出身のデザイナーによるもの。

――絵に沿って切り抜かれているので、とってもやわらかな印象を受けますね。

池田小豆島は、島自体が1つのブランド。ですので、そのブランドイメージに沿った商品づくりを常に心がけています。

単なる日本酒のお店ではなく、「小豆島のお酒」。
島で唯一の酒蔵なので、必然と「島の味」になるんです。

――島に1社しかないので、確かに「島を代表する味」になりますね。

池田地酒って、その土地の味を楽しめるものですよね。だからこそ、旅先で飲むのはもちろん、お土産として購入する方が多いはず。

島を表す日本酒を提供するためには、観光地ならではの手に取りやすさや、小豆島を思い出してもらえるようなラベルが必須でした。

池田お酒のボトルに首掛けしているタグにも、お酒の説明や小豆島の風土について書いているんですよ。

お酒のボトルに首掛けしているタグ

池田ラベルやタグを見て旅する気分になったり、時には「もう一度行きたいな」と感じてもらえたり。一口飲んで、島での時間を思い出してもらったり。

観光の島、「小豆島」を随所に感じてもらえればと思います。

――観光と結びつけている、というのが非常に小豆島らしいですね。

池田伝統のある蔵では「ラベルはこうしないといけない」といったしきたりがあるのかもしれませんが、私たちは歴史の浅い蔵ですから。
小豆島に来ていただける観光客の方を一番に、自由に発想して取り組んでいきました。

そこが、海外の方の手に取ってもらうきっかけになったのかもしれません。
まずは手に取ってもらわないと、はじまらないないですしね。

言語の壁に怖がることよりも、
「旅を楽しんでもらう」ことが大事。
日本酒を通して生まれる、世界との繋がり。

――日本酒は飲んでみないとその良さが分からないので、PRが非常に難しい商材かと思います。海外の方からの認知を高めるために、何か工夫されたことはありますか?

池田日本酒って、初めて飲む人にとっては「こういう食事に合わせる」とか「こうやって飲む」とか、少しハードルが高い印象もあります。

でも、私たちの酒蔵においては、「自分が思う形で自由に飲んでもらいたい」んです。

まずはその味を知り、自分の好きなスタイルで楽しんでもらいたい――店頭販売においても、海外販売においても、「直接味わってもらうこと」を一番大事にしています。

MORIKUNI

築70年の佃煮工場をリノベーションして作られた店内では、試飲はもちろん、カフェやバーとしても利用できる。

――ちなみに、店頭での試飲は無料ですか?

池田そうですね。試飲という体験も、旅の楽しみの1つだと思っています。

これはおいしかったな」「これとこれでは味が全然違うな」など、ご家族やお友達同士で、試飲体験の思い出をつくってもらえればいいなと思います。

それに、やはり味わっていただかないと、お酒そのものの良さってわからないですからね。

――店頭では試飲を行っているかと思いますが、海外の現地で直接飲んでいただくためにはどういった取り組みをされているのでしょうか?

池田フランス向けでは、レストランに直接卸しています。スーパーやディスカウントでは販売していません。1つ1つが手作りなので、数を売るよりも「楽しんで飲んでいただけるところ」に卸すようにしています。

また、年に一度ヨーロッパで行われる「Salon du sake」というイベントにも参加しています。

――率直に、海外の方に日本酒は好まれるお酒なのでしょうか?

池田もちろん! 好きな人は本当に好きですよ。

MORIKUNIのお酒は、毎年味が変化していくんです。その年その年の味わい、香りが楽しめるものなので、ワインを好まれる地域の方は特にお好きなのかなとも思います。

MORIKUNI

「酵母は生きものですから、温度や湿度によって状態が変わります。わがままだったり、素直だったり。まるで子どものようでしょう?」と杜氏さん。秋の終わりから春にかけて小豆島の蔵に入り、住み込みで寒造りに励むそう。

MORIKUNI

お米も小豆島で収穫されたものを使用。キヌヒカリほか、小豆島の千枚田で収穫された酒米「オオセト」が使われている。

――酒造のほかにベーカリーやバーなども経営されていますが、英語での接客がメインなのでしょうか?

池田海外のバイヤーさんの場合は、翻訳者を連れてこられますね。
店頭で個人の方に接客する際は、基本的にスマホの翻訳アプリなどを使っています。スタッフも片言で対応しています。

――流暢に英語が喋れなくても大丈夫なのでしょうか?

池田逆に、片言の方が喜ばれたりもします(笑)

旅は楽しむもの。商談ではないですし、海外だと怖がらず、現地の人と気軽に触れ合い、楽しんでもらうことが大事なのかな、と。

逆に翻訳アプリでいえば、変な翻訳になっておもしろくなったり。
そういった「現地ならでは」の体験こそ、旅の醍醐味なのかなと思います。

MORIKUNIベーカリー

MORIKUNIベーカリーに向かう取材スタッフと池田さん。ベーカリーは9時からオープンしているので、朝1番のフェリーで訪れた観光客がよく訪れる。旅の計画にも組み込みやすい。

――なるほど。「翻訳アプリ等を使って聞いてみる」という行動すらも旅行体験の1つだととらえると、店側のハードルも下がりそうですね。さすが観光の島、小豆島ならではの観点です。

――2022年12月現在、外国人の観光客は戻ってきていますか?

池田3年前は毎日のように来ていましたが、今はぽつぽつですね。

とはいえ、高松からの直行便が10月から再開しましたし、直近でいえばヨーロッパ、香港、台湾の方に来ていただけました。

――外国人の方は小豆島だけ観光に来られるのでしょうか?それとも、他の県にも行かれるのでしょうか。

池田比較的長い期間の休みであれば、島めぐりをする方が多い印象です。聞くと、九州から来られた方も。

単なる旅行先として来るのではなく、島めぐりだったり、行きたい場所があったり、何かの目的を持って来られている印象ですね。

――他の島を回ってくるなら、なおさらお土産はコンパクトにしたいですよね。観光客のことを第一に考えた商品企画、とてもすてきだなと思います。

小さな蔵から大きな夢を。
小豆島らしいお酒づくりを、ひたむきに取り組んでいく。

MORIKUNIは台湾の観光冊子にも取り上げられている

MORIKUNIは台湾の観光冊子にも取り上げられている。

――海外メディアにも取り上げられているんですね。ちなみに、何か営業活動をされていたりしますか?

池田酒屋さんに営業に行ったりなどは、特に何もしていないですね。

ある意味、ここ(店舗)での活動が営業活動かもしれません。試飲していただいたり、お酒の説明をしたり。
ネームバリューで買ってもらうお酒ではないので、1人1人のお客さんと向き合って、MORIKUNIのお酒を味わっていただくことが必要だなと感じています。

せっかく小豆島に来ていただいたんですから、楽しんで帰ってほしい。だからこそ、「体験していただくこと」に力を入れています。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

池田蔵を大きくするのではなくて、小さな島ならではの、他社ができないことをどんどん進めていきたいな、と思います。

日本酒は伝統産業ですが、私たちは他の酒蔵と比べて伝統が無い分、違った目線で日本酒を提供することができます。
MORIKUNIでは女性のスタッフが多く、その強みも生かしていきたいですね。細かな部分まで気を使い、小豆島ブランドとして、個性のあることをしていきたい。

伝統事業は大事ですし、当然、守っていきたいもの。
だからこそ、私たちには私たちのやり方で、他社ができないことをどんどん進めていきたいです。

MORIKUNIでの取材風景

――観光の島、そして小さな蔵だからこその斬新な取り組み。とても参考になりました!ありがとうございます。

取材を終えて

ぜひまた遊びにきてください」と話す池田さん。
小豆島が観光の島だからこそ、常に「体験してもらう」ことを大切にされていて、私たち取材スタッフも蔵見学などをさせていただきました。

他社にはないラベルやボトルのラインナップ。そして、何よりも、小豆島の風土を感じることができるお酒の個性。
お酒を通じて、まるで旅した気分になる――。しきたりを超えた先に生まれる「自由な発想」で世界の人々と繋がっていけることは、これから越境事業を始めようと思っている企業様にもぜひ知っていただきたいなと思いました。

 

MORIKUNI

〒761-4426 香川県小豆郡小豆島町馬木甲1010番地1

■ 公式サイト:https://www.morikuni.jp/

これまでの取材記事はこちら

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大好きな日本を、一人でも多く海外の人に知ってもらいたい!!との思いから、越境事業をサポートするお仕事をしています。越境ECや海外メディアの運用を通してあった出来事、情報をご紹介しています。海外展開を頑張るみなさんの何かヒントになれば幸いです♪「ぜひ取材に来て!」という海外事業担当の方がいらっしゃれば、お気軽にお問合せフォームにご連絡ください! みんなで日本を盛り上げていければと思います。

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